素粒子理論研究室の研究内容

当研究室では、標準模型を越えた物質の極微の構造を探求することを目標として、最近の進展が著しいニュートリノ物理学、さらには素粒子の質量生成機構についての研究を、国際的な共同研究体制の下に行っている。


1. ニュートリノ物理学、天体素粒子物理学

神岡大気ニュートリノ実験によってニュートリノ質量が発見され、標準模型を越える素粒子物理学の新たな未知の領域への扉が開かれた。これに続く太陽ニュートリノやカムランド原子炉実験によって3世代レプトンフレーバー混合の存在が明らかにされた。これらの発展を受けて、次のステップとしてレプトンフレーバー混合を記述する牧・中川・坂田(MNS)行列の全体構造の解明に向けた努力が進められている。具体的目標としてはレプトン CP非保存の発見、ニュートリノ質量パターンの決定等である。これらの目標は近未来の大強度加速器によるニュートリノ長基線実験で達成されると期待されており、その実験的解明に資するため、理論的な基礎研究を行っている。一方、大強度のニュートリノ実験では標準的な枠組からのずれを探索することも可能となり、標準模型を越える理論に関する手がかりが得られる可能性がある。それらのシナリオとしては、ニュートリノの非標準的な相互作用、ステライルニュートリノ、重い粒子の存在によるユニタリー性の破れ等があり、我々のグループでは、T2K(東海→神岡の長基線実験)・ニュートリノファクトリー(ミューオンの崩壊からのニュートリノを源とする長基線実験)等の近未来の計画で可能な物理に関する研究を行なっている。ニュートリノ質量とレプトンフレーバー混合の存在は物質の基本的階層の構造理解にとって重要な意味を持ち、大統一理論などの巨大なエネルギースケールにおける物理の反映であると考えられる。ニュートリノを通じて得られる情報は、2010年から稼動している LHC(大型ハドロン衝突型加速器)によるものとは相補的であり、それらを統合してクォークとレプトンの関係を手掛りにこの自然の深部構造に迫ろうとしている。

2.素粒子の質量の起源(電弱対称性の自発的破れの物理)

素粒子の質量の起源は謎に包まれている。電磁相互作用と弱い相互作用を生み出す電弱対称性と呼ばれるゲージ対称性が存在することは実験で検証されている一方で、この対称性は素粒子の質量がゼロであることを要求する。電子などの素粒子の質量はゼロでないことがわかっているので、この対称性は自発的に破れていなければならない。この電弱対称性の自発的破れのメカニズム(電弱対称性の自発的破れの物理)は未知である。様々な理論が提案されているなかで、特にそれが素粒子を弦理論に基づいて記述することによってはじめて理解できる可能性について主に研究している。欧州原子核研究機構(CERN)において、2010年に稼働を始めたLHC加速器による実験は、電弱対称性の破れの物理の解明を最も大きな課題としたものである。 弦理論は重力相互作用をも含めて物質と相互作用を統一的に扱うことのできる枠組みである。現時点で確立している量子場の理論の枠組みにおいては、物質粒子を用意してから相互作用を導入するという順序になっているため、電弱対称性の自発的破れが起こったことを素粒子に伝える相互作用について予言をすることができない。これが素粒子の質量の起源の謎であり、弦理論はこれを解き明かす枠組みである可能性がある。しかしながら、弦理論(超弦理論)は未完成の枠組であり、理論上の問題を多く含んでいる。上記の加速器実験に関係する研究と共に、弦理論の理論的問題の解決に関する研究も行っている。さらには、弦理論の宇宙論への予言についての研究も行っている。